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生存報告と拍手返信兼、夢SS置き場。 SSは本編に絡んでいるようで絡んでない感じのもの。 案外ジャンル問わずなんでもありになってたりします。 増える増えないは気分次第です(笑)
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T&B空夢 第二段です。

色々15話バレがあるので注意してください。
ちょっと悲恋っぽいかもしれない。


こうやって短編みたいな長編をちょいちょい書いていければいいかな~

どうにもイチャイチャしてるのを書くより、その過程を書く方が好きみたいです。
イチャイチャ好きなんですけどねえ。なぜでしょう。








<君はナイチンゲール 2>





シルバーステージにあるチェーンレストランのテーブルで、チヅルはグラスを持ったまま固まった。

「好きな人ができたんだ」

突如降りた宇宙からの使者に、脳内が停止する。
話があると言われ、外で昼食をとることにしたのは正解だったかもしれない。
仕事場では醜態をさらして、目を丸くされただろう。
チヅルを驚かせた向かいに座る人物-----キースは、ぽわ、とゆるんだ笑みを浮かべて、頬を染めている。
その姿はまるで初恋をした少女のような初々しさと甘酸っぱさがにじみ出て、人によっては可愛らしいと表現するような状態だった。

いや、実際、彼にとっては間違いなく初恋だろう。
チヅルの記憶の中にある彼は、今まで恋よりもヒーロー。愛よりも正義の人間だった。
ヒーローになる前から女性からの声は何度か聞こえていたが、そのすべての色目を天然という最強の防御壁ではじいてきたのがキースという人間だ。
今はヒーロー業をしているため、同性の友人との付き合いもなく、古い付き合いはチヅルだけだと断言できる。

そんな男が恋?
一体何処の馬の骨に惚れたんだ?
というか、よく恋の感覚を知っていたな。

半信半疑、ある意味馬鹿にした感想を抱きつつ、おめでとうと素直にたたえるべきか、冗談だろうと嘲るべきか、チヅルはゆうに10秒は考えた。
それだけ考えれば次の話題にも移動し、キースの熱の入った話は続く。
どうやら名前も知らない人物へ一目惚れしたこと。それをヒーロー女子組に知られたこと。アドバイスを得た事を知った。

「それで、チヅルにも何かアドバイスを欲しいんだ。女性はどうしたら喜ぶだろうか」

そんな事を聞かれても困る。とでかかった言葉はなんとか押し込めた。

正直チヅルの恋愛経験は、年からすると涙が出る程切ない。
言い寄られることはあったが、やはり相手に興味が湧かず断ってばかりいた。

だが素直に言えば目の前の恋するワンコはしょんぼりと耳と尻尾を垂らすだろう。
そこで決して馬鹿にする発言をしないのがこの男だ。

「そうだな・・・・・花でも渡せば、喜ぶのではないかな」

幼なじみへの期待に応えるために、なけなしの恋愛知識を掘り起こして、とりあえず無難で彼に合いそうな答えをチョイスした。

「ああ、だが。意味もなく送るのは向こうも不審に思う。何かの祝い事などがあれば効果的かもしれないな」
「・・・なるほど、そしてなるほど・・・・・・・」

そして自分がやられたらこう思うだろうなと思ったことも客観的に告げておく。
キースはそれに対して実に真面目に頷いた。



そうして恋の悩みごとのアドバイスをして、2人食事を終えてから、今日のトレーニングを終えたキースは彼女に会いに行くと言って去って行った。
それを見送り、チヅルは仕事場への帰路を1人歩く。

「キースが恋・・・・・・ね」

ぽつりと呟くと、胸が少しキリ、と痛んだ。

「何を傷付いているんだ。私は。馬鹿か」

幼馴染の恋だ。応援してやらねばなるまい。
祝福し、そしてその相手へエールを送って、おそらくアドバイザーをする役割に抜擢されて。

キースはきっと、うまくその恋を成就するだろう。
彼を拒む女性はそうそういまい。

颯爽と歩く速度がいつもより速いことに、本人は気付いていなかった。







その翌日------------というには日付が変わってすぐだったが。緊急で呼び出されたチヅルは、不機嫌と怒りを惜しげもなく前面に出して目の前の人物を威圧した。

「鏑木・T・虎徹。君は何度負傷すれば気が済むのかね」

毒を吐くチヅルに、処置を終えた虎徹は「すんません」と力なく呟いた。
殆ど心ここにあらずといった風の虎徹に、チヅルは今は何を言ったところで無駄だろうと悟る。
それでもこれは言っておかねばなるまい。

「ヒーローが死んでも誰も救われはしない。こだわりを馬鹿にする気はないが、それで自分の命を追い込むのは筋違いだ」

さっきよりは心に刺さったらしい。
虎徹はさらに声を小さくして、殆ど唸るように同じことを呟いた。

「君のパートナーにも、きつく言わねばな。彼は人の労りに疎すぎる」

医者として、管理を任されているものとして、身近にいる人間の改善も重要な仕事だ。
本人にも伝えるために言えば、虎徹はさっきの項垂れとは打って変わってガバリと顔を上げて詰め寄った。

「バニーには言わないでくれよ。ずっと人と関わらないで生きてたんだ。そういうのはこれから---------」
「これからでは困る。欠落している事を指摘する事は罪だと?それで君に何かあった場合、傷つくのは彼だ」

過保護な保護者の言い分に、チヅルの怒りが強くなる。
自分の事よりも他人の事。それがこの男の心情で美点であると知っているが、これはただの甘さだ。
チヅルの言い分に虎徹はひるんだが、すぐに表情を変えてチヅルに立ち向かっていた。

「--------それでも!たのむ。先生」

その顔つきに、チヅルは目を細めた。
バディの精神的な成長を促すことよりも、彼にとってマイナスな面があるというのだろうか。
それとも、それを補えなければバディではないとでも思っているのか。
何にせよ、チヅルには愚かな行動としか思えなかった。

「君は、いつかそうやって身を滅ぼして死ぬな」

辛辣な言葉に、しかし虎徹は安心するように表情を緩めた。

「バーナビー・ブルックス・Jr.には黙っておこう。だが、近いうちに必ず君が自分で言いたまえ。それが条件だ」

カツカツと机を指で叩き、チヅルは訂正した後、交換条件を出した。
虎徹は無言で頷き、チヅルはそれを確認した後、虎徹に帰宅了承をだす。

「それと」

帰る準備をする虎徹を見ないまま、カルテの項目を埋めつつもう一つ助言した。

「隠し事をしたいのであれば、わからないように振る舞いたまえ。機微に疎い君の相棒ならともかく、私にはバレバレだ」
「・・・・・・・・すまねえ」

帽子を深くかぶり、虎徹は去って行った。

(おそらくNEXT能力の関係だろうな)

職業上、人を見る能力は長けている。
彼が気落ちする場合、十中八九仲間か能力の事だ。
彼はヒーローであることに執着している。現在仲間との諍いはないため能力に関する悩みだと推測した。

(少し調べるか・・・)

もし直前で言われても対処できるよう、NEXTに関するデータベースを調べることに決めた。

今日のカルテを書き終えてから、すぐにとりかかり、何件か心当たりを見つけた頃には日が昇る時刻になっていた





結局そのまま医務室のベッドで仮眠を取った後、日課になっているヒーローたちのジムへ顔を出した。
昼も近いからか、既に殆どのヒーローたちがトレーニングに勤しんでいる。

その中で、妙に張り切っている人間と、凹んでいる人間を見つけ、チヅルはふ、とため息をついた

(こっちが凹んでいると思えば、今度はあちらがご機嫌だな)

ついこの間までは逆だっただろうにと、張り切っているキースと虎鉄を見る。
虎徹の原因はわかっているが、キースは一体どうしたのかと思っていると、こちらに気付いたキースが、主人を見つけた犬のように顔を明るくさせて走り寄ってきた。

「Ms.メランドリ!!」

その様子にチヅルは後ずさった。が、すぐにキースに手を取られ、別の場所に移動される。
そうして目の前で尻尾を振り回す犬に、チヅルは目を瞬いた。
チヅル!ありがとう!そしてありがとう!!今日君のアドバイスが実行できそうなんだ!」
「なんだ。何か嬉しいことでもあったのか」
「ああ!彼女のおかげで私はヒーローとしてどうあるべきかを思いだせた!今日はこの後彼女にお礼をしに行くつもりだ」
「そうか。よかったな」

どうやら機嫌が良かったのは件の初恋の人とうまくいっているようだったからだった。
チヅルの心情は何ともいいがたく重くなったが、素直に友人の幸せを祝福した。


チヅルは、いつだって私によくしてくれる。本当に、私はこんな親友を持てたことを誇りに思う」


ありがとう。そしてありがとう。といつもの彼の言葉に、チヅルはいつもとは違う感覚を感じていた。
その答えを出さないまま、チヅルはまたトレーニングに戻っていくキースを見送り、そして医務室に戻る為に足を動かした。

(体が重いな・・・)

おそらく今日の徹夜がひびいたのだろう。
そう結論付けて、チヅルは今日は定時に帰宅することを念頭に、今日の予定を反芻した。

しこりのように重く残る、胸の痛みには気付かぬふりをして。





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